建設業における出向は人材派遣になる?派遣と出向の違いを解説!
さまざまな業界で人手不足という声をよく聞きますが、建設業も例外ではなく、深刻な問題となっています。人材を確保する手段として出向や派遣がありますが、2つの違いがよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
今回は出向と派遣の違い、建設業における雇用関係の重要性について解説します。
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もくじ
出向の仕組みとは?
出向とは、企業の枠を超えた人事異動を指し、出向者を送り出す企業を「出向元」、出向者を受け入れる企業を「出向先」と言います。出向には2つのタイプがあり、期限を設定して出向者を受け入れるタイプが「在籍型出向」、期限を設けずに出向者を受け入れるタイプが「転籍出向」です。
以下で、在籍型出向と転籍出向の仕組みについて詳しく解説しますので、それぞれの違いについて見ていきましょう。
在籍型出向の仕組み
在籍型出向とは、出向元の企業に籍を置いた状態で出向先の企業で働くことを指します。出向者は、出向元と出向先双方と労働契約を結び、あらかじめ設定された期間が満了した場合や、予定されていた業務が終了すると、出向元へ戻ります。
在籍型出向の目的は「雇用の確保」「経営や技術に関する指導」「職業能力開発の一環」「人事交流の一環」の4点です。雇用の確保は、経済状況が思わしくなく余剰人員が発生した際に、人手不足に悩む企業へ出向をさせることで従業員の雇用を守ることができます。
経営や技術の指導は、従業員が培ってきた技術やノウハウを活かして出向先の企業で指導を行うケースです。出向先の従業員のスキルアップなど成長が見込めるだけでなく、出向者自身の成長も期待できるため、出向元と出向先双方がメリットを得られる形となります。
職業能力開発の一環は、出向者が出向元で活用できるスキルやノウハウを手に入れることや、業務に関して理解を深めるために、関連企業などに出向するといった目的があります。
人事交流は、グループ企業や関連企業との交流を図ることを目的としていることが一般的です。人事交流を目的とする場合は、事業に関わる企業であることや継続的に人事交流が行われることが重要視されます。
転籍出向の仕組み
転籍出向は、出向元の企業と雇用契約を解消し、出向先の企業と新たに雇用契約を結ぶ形となります。出向元と雇用契約が解消されるため、基本的に出向元の企業へ戻ることはありません。
万が一出向元の企業へ戻る場合は、新たに労働契約を結ぶ必要があります。出向元と出向先は出向契約を結びますが、出向者にとっては実質転職した形となる点が在籍型出向と異なる点です。
転籍出向の主な目的は、雇用調整です。経営の悪化により本来の事業活動が難しくなった際に、労働力を削減するために行われます。
事業の縮小によって仕事がなくなった従業員を対象に転籍出向させ、人件費などのコストを削減して事業活動の改善を目指していきます。転籍出向を行う場合会社都合となるため、従業員に転籍出向となった理由や経緯を説明し、同意のもとで行う必要があります。
また、従業員は企業から転籍出向を命じられた場合、拒否することが可能です。基本的に企業と従業員双方の合意があった上で、転籍出向を行う必要があります。
また、企業側は拒否したことを理由に異動や給与の引き下げといった対応もできません。
派遣と出向の違い
出向と派遣も、出向あるいは派遣された先で業務を行うという働き方のため、似ているように思えますよね。それぞれの仕組みを理解し、異なる点を考えていきましょう。
出向とは
出向とは、元々在籍している会社に籍を置いたまま、子会社や関連会社で業務を行う働き方です。派遣と異なる点は、出向先とも労働契約を結ぶということです。派遣とは違い、法律で定められたような定義はありません。
一般的に出向には、出向元との労働契約は結んだまま出向先との労働契約をプラスする在籍出向と、出向元との労働契約を解消して出向先のみと契約を結ぶ転籍出向の2種類があります。
在籍出向はあらかじめ期間が決まっていることが多く、業務終了後に出向元へ戻るため異動のような意味合いもありますが、転籍出向は出向元との契約は解消しているため、基本的に戻ることはなく、出向先の企業への転職というイメージです。
出向の目的は会社や業務内容によってさまざまですが、雇用の確保や技術指導、スキルの取得や関連会社内での交流などが多いようです。
派遣とは
派遣とは、派遣元の会社と雇用契約を結び、派遣先の会社で業務を行う働き方です。この点だけを見ると在籍出向と同じように思えますが、派遣社員は派遣先の会社からの指揮命令を受けるものの両社間に雇用関係はありません。これは派遣と出向の大きく異なるポイントでしょう。
派遣には労働者派遣法という法律があり、さまざまなことが定められています。実際に給与を支払うのは派遣元の会社であり、保険料なども派遣元の負担となります。同じ派遣先の同じ組織内での雇用期間は、最短で31日以上、最長3年以内と定められていますが、出向に関しては法律で定められている雇用期間はありません。
派遣先の会社としては、ニーズに合った即戦力となる人材を確保できるため、多くの会社で派遣社員を受け入れています。
偽装出向にならないようにするためには?
出向と派遣には雇用契約のあり方や労働時間、給与の支払い方法などに違いがあります。違いについて正確に把握していないと、偽装出向とみなされて厳しい処分を受ける可能性があります。
偽装出向とは、出向のように見せかけて労働者を供給する事業です。労働者を供給する事業とは、労働者を供給する側と供給される側が「供給契約」を交わした後、従業員を労働力として提供し、対価を受け取る行為のことで違法行為として扱われます。
労働力を提供し対価を受け取る行為に「労働者派遣」がありますが、この場合は違法になりません。労働者派遣を行う場合は厚生労働大臣の許可が必要で、許可に必要な条件が厳しく、運用においても制約があります。
偽装出向は労働者派遣による制約を避けられることから、「出向」といった形で労働力を提供して対価を得る企業も存在しています。
偽装出向に該当する状態とは
偽装出向を行った場合、派遣元は労働者派遣法の規制を受ける心配がありません。派遣先にとっても3年以上直接雇用へ切り替える必要がない状態で労働力を確保できるほか、指揮命令権を持つことができるといったメリットがあります。
このような派遣元と派遣先双方のメリットがあることから、偽装出向が起きるケースもあります。労働者派遣事業として許可を取っている以外に、自社の従業員を他社へ送ることも禁止です。
表面上は出向を装っても、派遣先が派遣元へ出向者の対価を支払っている偽装出向は、職業安定法第4条で定められている「無許可の労働者供給事業」にあたります。偽装出向はそのほかに、コンサル料や業務委託費を受け取っている場合といった「事業として出向を行っている」ケースも該当します。
また、複数の企業に社員を出向させている場合も、事業を目的として労働力を提供しているとみなされるため、注意が必要です。
なぜ在籍型出向が無許可の労働者供給事業にあたらないのか
在籍型出向が無許可の労働者供給事業にあたらない理由として、職業安定法では労働者供給をビジネスとして行うことを禁止している点にあります。一時的な不況に伴う余剰人員の雇用を守るために、在籍型出向を行う際はビジネスとみなされません。
先述した「雇用機会の確保」「経営や技術に関する指導」「職業能力開発」「人事交流の一環」に関しては、ビジネスと判断されることはないため、無許可の労働者供給事業にあたりません。
偽装出向が発生しない体制を作るための方法
出向者が安心して働ける環境を構築するために、偽装出向が起こらない体制を作る必要があります。出向を行った場合、出向先と出向元が、社内全体に出向の目的を周知させ、偽装出向を防止することが大切です。
出向元と出向先との間で、給与以外の金銭のやり取りが見られると、偽装出向ではないかと疑われてしまいます。偽装出向を疑われないためにも、グループ企業や関連企業以外の企業との間で出向による利益が発生していないことや、在籍型出向の目的を満たしていることを証明できるようにしましょう。
出向元や出向先どちらも定期的に現場の様子を確認することも必要です。その際、出向者と派遣社員がいる場合は、しっかりと見極めができるようにしておくと良いでしょう。
偽装出向とみなされないために、出向者に対して給与を過度に増やさないようにすることも大切です。出向元の給与よりも多く受け取ってしまうと、利益を上げていると判断されて偽装出向であると疑われる可能性もあります。
職業訓練計画書を作成し、出向者や出向先のスキルアップを目的とした出向であることを明確にしておくなど、証明できる書類を用意しておくと万が一の場合でも対応が可能です。出向元と出向先で直接やり取りを行うことも、偽装出向と疑われないための有効な手段です。
また、出向元の社員が本来の出向先へ移った後、さらに別の企業へ出向すると出向元とのつながりがないと判断されやすくなります。そのほか、人員の補充が目的であるとみなされる場合もあるため、注意が必要です。
出向の際は、出向元のグループ企業や関連企業に出向先を限定し、職業訓練計画書などを作成しておくと偽装出向と疑われる可能性は低くなるでしょう。
過去の偽装出向の事例
ここでは、過去に偽装出向を行った企業の事例を紹介します。
日野自動車は2006年に派遣会社から1,100人を偽装出向させ、自社工場で働かせていたことがわかりました。東京労働局は職業安定法に違反するとして、日野自動車を指導処分とし、その後出向労働者を派遣社員に切り替えています。
日野自動車は、東京都羽村市の羽村工場や群馬県太田市の新田工場でも同様の手口で合計約800人を受け入れていたことが判明しました。日野自動車は派遣社員として受け入れた場合、1年以上経過した際に直接雇用を打診する義務を避けるべく偽装出向に踏み切ったとされています。
建設業における直接的な雇用関係とは
建設業でも人手不足に悩まされている会社は数多く存在します。現場に置かなければならない主任技術者・監理技術者の確保も課題となっていますが、そこには雇用関係が関わるのです。
主任技術者・監理技術者となるためには、所属する建設業者との間に直接的かつ恒常的な雇用関係が必要との規定があるからです。建設業における“直接的な雇用関係”とは、主任技術者や監理技術者とその所属する建設業者との間に第三者が介入する余地のない、雇用に関する一定の権利義務関係(賃金・労働時間・雇用・権利構成)が存在することをいいます。
出向者や派遣社員は、このような直接的な雇用関係にあるとはいえず、たとえ資格や経験があっても主任技術者や監理技術者にはなれないということになります。
建設業における恒常的な雇用関係とは
建設業における“恒常的な雇用関係”とは、一定の期間にわたって当該建設業者に勤務し、日々一定時間以上職務に従事することが担保されていることをいいます。
国などが発注する公共工事においては、基本的には主任技術者や監理技術者は、所属建設業者から入札の申込のあった日より3か月以上前から雇用関係にあることが必要であるとされています。
建設業において直接的かつ恒常的な雇用関係が求められる理由
人材が不足しているにもかかわらず、建設業において、とくに主任技術者や監理技術者はなぜ直接的かつ恒常的な雇用関係が求められるのでしょうか。それは、建設工事の適正な施工を確保するためにほかなりません。
建設工事を適正かつスムーズに行うためには、所属する建設業者と建設現場の管理・監督を行う主任技術者や監理技術者が、お互いの持つ技術力をきちんと把握することが重要です。
出向者や派遣社員など、所属する建設業者と直接的雇用関係でない場合や雇用期間が短い場合は、お互いの関係性が希薄なことも多く、よりよい協力関係を築くことはなかなか難しいかもしれません。そこで、お互いの技術力を充分に活かすためには、直接的かつ恒常的な雇用関係が必要となるのです。
まとめ
働き方が多様化している今、所属している会社とは別の会社で働くことも珍しくありません。派遣と出向は、それぞれ特徴なども異なります。会社側もよりよい人材を確保するためにも、雇用関係を熟慮することでしょう。
建設業に限ったことではありませんが、どのような雇用形態でも、所属している会社や業務している職場で知識やスキル、経験を身に付けたり活かしたりしながら、有意義な時間を重ねることが大切かもしれません。